Interview
金井先生はどのような研究開発を行っていますか?
「電子カルテと連携する、 遠隔操作による点滴の自動切り換え装置を開発。 」
抗がん薬の投与は「レジメン」と呼ばれる計画書によって実施されるのですが、薬液バッグの交換や投与速度、投与順の設定は、現場の看護師が手作業で行っているのが現状です。
近年、抗がん薬の開発に伴い、薬の種類が急速に増加し、レジメンの内容が複雑・多様化しています。さらに抗がん薬治療を必要とする患者さんの数も年々増加しており、ヒューマンエラーによる誤投与のリスクが増大しています。
これらの問題を解決するために、2014年に点滴自動切り換え装置の開発に着手しました。
点滴筒の液面を自動回復させるプロセスが大きなハードルとなり、途中で開発が頓挫しそうになったのですが、新規技術の発明によりこのハードルを乗り越え(国内特許、米国特許取得済)、プロトタイプの開発に成功しました。引き続き自動切り換え装置と電子カルテとの連携システムも開発し、電子カルテに入力されたレジメン情報を切り換え装置側で受け取り、その指示通りに自動で薬液バッグを切り換え、点滴投与を行うことが可能となりました。
この装置を用いれば、薬液バッグ交換時に起こりうる投与速度や投与順の間違いなどのヒューマンエラーを回避することができます。開発開始当初は本プロジェクトの支援者は少なかったのですが、趣旨に賛同してくれた医療機器メーカーの担当者と共同で粛々と開発を進め、その成果が認められ、2022 年にはAMED(日本医療研究開発機構)の大型研究費を獲得することができました。実用化に向けた薬事承認まであと少しという段階です。
本装置が実用化されれば、現場の看護師の負担を減らせるとともに、安全で正確な抗がん薬投与が可能となります。
また京大在籍時代にベンチャー企業の立ち上げにも関わり、天然化合物であるクルクミンの注射製剤を開発し、新規抗がん薬としての臨床応用を目指した研究を現在も続けています。

臨床腫瘍科を設立した背景について教えてください。
「がん薬物療法の〝最前線〟を切り拓く。それが臨床腫瘍科の社会的使命。」
私が医者になった当時(1994年)は、分子標的薬は存在せず、抗がん薬の種類も限られていました。
しかし 2000 年に入って新規抗がん薬の開発が活発になり、2014年には免疫チェックポイント阻害薬が臨床導入され、2019年からはがんゲノム医療もスタートし、 抗がん薬治療は急速に進歩・多様化しました。 それに伴い、 現場の医師には適切な抗がん薬を選択し、安全に使用する知識が求められています。副作用のない抗がん薬は存在しませんが、副作用の管理については知識だけでなく現場での経験も必要です。
臨床腫瘍科は、そのような時代背景から生まれた新しい領域とも言えます。
がんは依然日本人の死因の一位を占めており、さらなる治療成績の向上を目指して新薬開発を含めた様々な臨床研究が行われています。
がん薬物療法の領域において新たなエビデンスの創出に寄与するような多施設共同臨床試験には積極的に参画するとともに、我々も臨床試験を立案・実践していきたいと考えています。


メッセージをどうぞ。
「がん薬物療法の専門家を目指したい人は、ぜひ〝臨床腫瘍 科〟へ。 」
がん薬物療法のニーズはこれからも増加することが予想されます。
しかし日本のがん薬物療法専門医は約 1700 人であり、米国におけるがん薬物療法の専門医(腫瘍内科医)の約19000人と比べてもまだまだ少ないのが現状です。
関西医科大学附属病院は、北河内医療圏(総人口約120万人)のがん診療の基幹病院として多くのがん患者さんを受け入れており、がん薬物療法を実践しています。臨床と研究の両面で多くの経験を積む機会に恵まれているのが当科の特徴と言えます。
がん薬物療法の最前線で経験を積みたい方はぜひ当科の門を叩いてください。
心よりお待ちしております。

臨床腫瘍科の未来を担う
皆さまへ
エビデンスに基づく臓器横断的がん診療
Evidence-Based Oncology